普通に暮らしていても、病気を機に人生が大きく変わってしまうことがあります。
特に、普段からギリギリの生活をし、十分な貯蓄が難しい方は、大きな影響を受けます。
病気で収入が途絶える上に、医療費がかかってくるからです。
健康保険に加入していれば、傷病手当金注1)が支給されますが、国民健康保険にはこのような制度はありません注2)
また、高額療養費制度がありますが、低所得者注3)に該当する方でも1か月あたり最大35,400円の窓口負担が必要となります。
決して、安いとは言えない額です。
そこで、通院・入院の費用がない場合、どうしたらよいのかを考えてみました。
生活に困ったら?!
注1)継続した12月間の各月の標準報酬月額×2/3(非課税)
注2)新型コロナウイルスに伴う傷病手当金の制度があります。
注3)市町村民税非課税者である被保険者又はその被扶養者、生活保護法に規定する要保護者であって厚生労働省令で定めるものに該当する被保険者又は被扶養者(70歳未満の方)。高額療養費多数回該当の場合は、24,600円。


1.医療ソーシャルワーカーに相談
医療ソーシャルワーカーは、保健医療機関等において治療中の患者や家族の相談にのり、社会福祉の立場から経済的・心理的・社会的問題の解決、調整、社会復帰を支援してくれます。
そして、患者が、医療費、生活費に困っている場合には、福祉、保険等の諸制度を活用できるよう支援もしてくれます。
入院費がなるべく安く済むように検討してくれたり、病院によっては医療費を分割払いとしてくれる場合もあります。
医療費の支払いに不安がある方は、一度ご相談してみてはいかがでしょうか?
ただし、医療ソーシャルワーカー協会は、医療ソーシャルワーカーの配置基準を「(おおむね)病床100床あたり1名」としているように、大きな病院にしか配置されていないのが現状のようです。
<参考資料>
公益社団法人 日本医療ソーシャルワーカー協会
ご存知ですか? 病院にソーシャルワーカーがいます

2.無料低額診断事業を行う病院で治療する
無料低額診断事業は、経済的な理由で適正な医療が受けられないような事態を避けるために、医療機関が無料または低額な料金によって診療を行う制度です。対象者は、低所得者、要保護者、ホームレス、DV被害者、人身取引被害者などの生計困難者となります。
本制度の利用を希望する方は、社会福祉協議会や福祉事務所にご相談の上で、無料(低額)診療券の交付を受け、無料低額診断事業を行う病院で診療を受けることとなります。
また、直接、無料低額診断事業を行う病院の窓口に相談することもできるようです。
宇都宮協立診療所では、「国民健康保険の短期保険証や資格証明が発行され困っている方」「病気や障害などで収入がなくて困っている方」「ストラや失業のため一時的に収入がなくなって困っている方」「医療費の支払いをすると生活に困難を生じる方」が対象となっています。
無料低額診断事業を行う病院は、 全日本民医連のホームページで確認することができます。
とても良い制度のように思えますが、受診できる医療機関や診療科が限定的なのが難点です・・・。
<参考資料>
無料低額診療事業 制度の説明( 全日本民医連)
無料低額診断事業(厚生労働省)
宇都宮協立診療所
生協ふたば診療所

3.社会福祉協議会の福祉費の活用
お住いの社会福祉協議会では「福祉費」として「負傷又は疾病の療養に必要な経費、及びその期間中の生活費(療養)」の貸付を行っています。医療費の自己負担額や通院費用だけでなく、療養期間中の生活費も借入れることができます。あくまでも「貸付」ですので、返済が必要となりますが、返済期間が20年以内と長く、連帯保証人を付けることができれば無利子での借入れが可能です(保証人がいない場合には年1.5%の利子となる)。また、低所得世帯(市町村民税非課税程度)、障害者世帯、高齢者世帯が対象となります(自治体によっては、生活保護世帯も対象となる)。
<参考>
生活福祉資金一覧 (shakyo.or.jp)

4.自立支援医療制度の活用
自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。
公的医療保険(健康保険、国民健康保険、など)では、70歳未満の方の自己負担額は3割ですが(就学前児を除く)、この制度では、1割負担(負担上限額以下)となります。ただし、入院費用は対象外です。
対象者は以下の通りです。
①精神保健福祉法第5条に規定する統合失調症などの精神疾患を有する者注4)で、通院による精神医療を継続的に要する者
②更生医療:身体障害者福祉法に基づき身体障害者手帳の交付を受けた者で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳以上)
③育成医療:身体に障害を有する児童で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳未満)
この制度を利用するには、お住まいの自治体の窓口にて申請を行い、自立支援医療受給者証の交付を受ける必要があります。
注4)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第五条
 この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう注5)
注5)躁うつ病・うつ病 、てんかん 、認知症等の脳機能障害も含まれます。また、精神医療に一定以上の経験を有する医師が判断した方も対象となります。さらに、不眠症、抑うつ状態等の軽度のメンタル障害でも対象となるようです。

<参考資料>
自立支援医療制度の概要(厚生労働省HP)
自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み(厚生労働省HP)
自立支援医療(精神通院医療)について (厚生労働省HP)
病気の話|杉並区医師会

5.高額医療費貸付制度の利用
全国健康保険協会注6)の被保険者は、高額な医療費の支払いに充てるための費用が必要である場合に、高額療養費が支給されるまでの間、無利子の貸付制度を利用することができます。
事前に高額の医療費がかかることが判明している場合には、「限度額適用認定証」を申請することで、窓口での支払いは自己負担限度額以下となります。
しかし、限度額適用認定証の発行には1週間程度かかり注7)、急病で申請する時間的余裕がないような場合には、いったんは窓口での医療費負担が必要となります。
このような場合には、本制度を利用することで高額療養費支給見込額の80%相当額を無利子で借りることができ、借入金で医療費の支払をすることができます。
注6)健康保険組合、国民健康保険でも同様の制度があります(詳細は組合、自治体で異なります)。
注7)健康保険組合でも1週間程度を要します。国民健康保険は市町村の窓口で即日発行が可能です。


6.まとめ
ざっと制度を見てきましたが、どれも申請や審査が必要となり、時間がかかるようです。
いざというときのために、相談できるかかりつけ医を作ることが必要だと感じました。
また、一人で悩まず、誰かに相談することがとても大切です。
お金を借りることになっても、健康を取り戻せば働いて返済することもできます。
そして、ほかの誰かが困っているときに手を差し伸べることで社会に恩返しができます。
助けを求めることは恥ずかしいことではありません。
勇気を出して、とにかく相談しましょう。