ペットショップやブリーダーなどの犬や猫を販売する事業者には、2022年6月以降に取得した犬・猫に対してマイクロチップの装着が義務付けられました。一般の飼い主にはマイクロチップ装着の義務はありませんが(努力義務はあります)、ペットショップやブリーダーから購入した際には、購入してから30日以内に”所有者情報の変更登録”を行う義務が生じます。ネットや郵送での変更登録は難しいものではありませんが、”30日以内に登録”と聞いただけで抵抗感を感じる飼い主さんもいるかもしれません。そんなとき、ペットショップやブリーダーが飼い主さんを代行して”所有者情報の変更登録”を行うことができるのでしょうか?
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マイクロチップの「所有者情報の変更登録」は行政書士の独占業務に該当します。

 友人・知人から「行政書士って何する人?」と聞かれることが多いのですが、「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。(行政書士法 第一条の二第一項)」と定義されます。この「書類」には電磁的記録(データ)も含まれます。また、「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。(行政書士法 第一条の二第二項)」と規定されます。つまり、弁護士法、司法書士法、社会保険労務士法等でそれぞれの士業の独占業務とされる書類作成以外を行うのが行政書士となります。そして、「行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。(行政書士法 第十九条第一項)」とも規定され、違反した場合には、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」に処せられます。
 マイクロチップの”所有者情報の変更登録”は、申請書を環境大臣に提出して行うものですから、まさに「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類」に該当します。マイクロチップの装着や登録が義務化される前は、AIPO(動物ID普及推進会議)やジャパンケネルクラブなどの民間団体がマイクロチップの登録を行っていました。つまり、マイクロチップの登録申請書の提出先は官公署ではなく、民間団体だったのです。そのため、ペットショップ等が飼い主さんを代行して”所有者情報の変更登録”を行うことができたのです。しかし、義務化に伴い登録申請書の提出先が環境大臣になったことで、ペットショップ等が報酬を受けて”所有者情報の変更登録”を行うことができなくなりました。では、報酬をもらわなければよいのか?との疑問が湧きますよね。ペットショップが行う代行は、たとえサービスの一環として無償であっても、ペットの購入費用に代行料が含まれるととらえることもでき、注意が必要となります。
 なお、行政書士法第十九条のだだし書きには、「他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。」とありますが、現時点において、マイクロチップの登録業務は行政書士以外も行うことができる「総務省令で定める手続」には含まれていません(行政書士法施行規則 第二十条第一項)。

お客様のために何ができるの??

 マイクロチップの”所有者情報の変更登録”の代行が行政書士法第十九条違反になるのであれば、ペットショップはお客様のために何もできないのでしょうか?当然ながら、お客様自身は変更登録をすることはできますので、ペットショップが登録の方法などをお伝えすることでサポートすることは可能です。変更登録はとても簡単な作業ですので、行政書士に依頼するまでもなく、説明書の配布などのわずかなサポートで変更登録が可能です。また、店頭に登録用のPCやタブレットを設置することで、不明点を店員さんに質問しながら登録することもできるのではないでしょうか?
(ほんとに、ほんとに簡単です。)

<参考資料>
行政書士法 | e-Gov法令検索
行政書士法施行規則 | e-Gov法令検索
動物の愛護及び管理に関する法律 | e-Gov法令検索
犬と猫のマイクロチップ情報登録 (env.go.jp)
全国ペット協会会報(2022 June Vol.62)ペッツプロフェッショナル