SNSで中傷を受けたプロレスラー木村花さんが命を絶ったことをきっかけに、誹謗中傷に対する議論が巻き起りました。この動きを受けて2022年6月13日に改正刑法が可決・成立し、侮辱罪が厳罰化されました。
 この法律改正で、何が変わったのでしょうか? そして、SNSで人権を侵害されたと感じた時にはどのように対処すればよいのでしょうか?法律で規制しなければ誹謗中傷を止められないというのは悲しいことですし、法律を改正したからといって悲劇が本当に防げるのか不透明に感じますが、自分や大切な人を守るために法律や制度を最大限に活用したいものです。
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この法改正のポイントは?

〇侮辱罪の法定刑が、「拘留または科料(刑法第二百三十一条)」から「一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられました。
〇公訴時効期間が、1年から3年に延長されました。
〇被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、逮捕が可能になりました。

厳罰化の内容と私達への影響は?


 法律の改正前は拘留または科料のみであった侮辱罪の法定刑に、一年以下の懲役もしくは禁固もしくは30万円以下の罰金が追加されました。拘留は「1日以上30日未満の間、刑事施設に収容する。(刑法第十六条)」というものですし、科料は「千円以上一万円未満(刑法第十七条)」ですから、刑がかなり重くなったことが理解できると思います。また、同じく「名誉に対する罪」である名誉棄損罪の刑が「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金(刑法第二百三十条)」であることを考えると、これまでの侮辱罪の法定刑がとても軽いものであったことがわかります。更に、法定刑に「長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金」が加わったことで、検察官が裁判所に加害者を裁判にかけることを求めることができる公訴期間が延び、誹謗中傷を行った人間に罪を償わせることができる可能性が広がりました(刑事訴訟法第二百三十条)。
 今回の法改正は、加害者側(誹謗中傷した側)に課される刑が重くなりましたが、被害者となりうる私達にとっては、どのような影響があるのでしょうか?これまでの侮辱罪の法定刑の重さでは、「被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合」でなければ、逮捕することができませんでした(刑事訴訟法第百九十九条)。しかし、法改正により「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」であれば逮捕が可能となったのです。つまり、身柄拘束までのハードルが下がることで、これまでよりも早期に誹謗中傷を止めることができるようになったと考えています。
 言論の自由を脅かすのではないか?という声もある侮辱罪の厳罰化ですが、様々な人権のバランスを取りながら運用していく前提で歓迎したいと思います。

SNS等で誹謗中傷されたらどうすればいいの?


 実際に私達が誹謗中傷を受けたらどうしたらいいのでしょうか?身の危険を感じる等緊急性が高い場合には迷わずに、警察の窓口に相談しましょう。ただ、緊急性が低い場合には、警察に出向くのはハードルが高いこともありますよね。法務省のサイトには、誹謗中傷されたときの相談窓口がタイプ別に分かりやすく紹介されていますので、そこから一部抜粋してお伝えしたいと思います。

誹謗中傷されている。すぐに書き込みを削除させたい!!

違法・有害情報相談センターに相談できます。
サイトへのアクセスはこちら

専門的な知識を持つ人が、自分で行う誹謗中傷の削除依頼の方法などを教えてくれます注1)
誹謗中傷以外にも、インターネットに関して幅広いアドバイスが受けられます。

インターネットで受付し、相談もインターネット上のマイページ内で行います。

外国人の方は、法務省インターネット人権相談受付窓口で相談できます。
Human rights counseling services in foreign languages on the Internet.
法務省:外国人のための人権相談 (moj.go.jp)

誹謗中傷を止めてほしいけど、自分では削除依頼ができそうもない・・・。

法務省インターネット人権相談受付窓口に相談できます。
サイトへのアクセスはこちら。

困りごとに応じて、法務省がプロバイダ等に対して削除要請を行ってくれます注2)
自分で削除依頼できそうな場合には、依頼方法などの助言も受けられます。

相談はメールで行われますが、急ぎの場合には電話での相談もできます。
みんなの人権110番 0570-003-110
こどもの人権110番 0120-007-110

外国人の方も相談できます。
Human rights counseling services in foreign languages on the Internet.
法務省:外国人のための人権相談 (moj.go.jp)

海外のサイトで誹謗中傷を受けている。
どうしたらいいのかな?

誹謗中傷ホットラインに相談できます。
サイトへのアクセスはこちら。

国内外を問わず、プロバイダに各社の利用規約等に沿った対応を促す連絡をしてくれます注3)

インターネットで受付し、相談はメールで行われます。

誹謗中傷を書き込んだ人に償ってほしい。
でも、弁護士費用なんてだせない・・・。

法テラスに相談できます。
サイトへのアクセスはこちら。

相談内容に応じて、法制度や相談機関・団体等に関する情報提供が受けられます。

経済的に余裕のない方は、無料で法律相談が受けられます。
必要な場合には、弁護士・司法書士の費用等の立替えもしてもらえます注4)

電話やメールなどいろいろな方法で相談できます。
0570-078374(通話料有料)平日9時から21時、土曜日9時から17時
メール受付
面談:お近くの法テラス(地方事務所一覧)

外国人の方も相談できますが、日本に住所があり、適法な資格で在留している必要があります。
外国人専用ダイヤル 0570-078377(おなやみナイナイ)→通訳を介してお話できます。

誹謗中傷は止まったけれど、とても辛い。
アドバイスは要らないから、静かに話を聴いてほしい。

いのちの電話でお話できます。
0120-783-556 (フリーダイヤル・無料)
毎日16時から21時まで
毎月10日午前8時から翌日午前8時まで

通話料は有料ですが、各地域のいのちの電話では、
24時間対応しているところもあります。
全国のいのちの電話一覧

誹謗中傷は止まったけれど、とても辛い。
相談にのってほしい。

こころの健康相談統一ダイヤルに相談できます。
0570-064-556 おこなおう まもろうよ こころ(ナビダイヤル)
お住まいの地域が実施している「心の健康電話相談」などにつながります。

よりそいホットライン(1番ライン)に相談できます。
0120-279-338 つなぐ ささえる(フリーダイヤル・無料)
岩手県・宮城県・福島県は以下の番号
0120-279-226 つなぐ つつむ(フリーダイヤル・無料)

誹謗中傷は止まったけれど、とても辛い。
死にたいほどの気持ちを抱えている。

いのちSOSでお話できます。
0120-061-338  おもい ささえる(フリーダイヤル・無料)
月曜日、木曜日00:00~24:00
火曜日~水曜日、金曜日~日曜日8:00~24:00
※日曜日8:00~月曜日24:00まで、水曜日8:00~木曜日24:00までは連続対応

よりそいホットライン(5番ライン)でお話できます。
0120-279-338 つなぐ ささえる(フリーダイヤル・無料)
岩手県・宮城県・福島県は以下の番号
0120-279-226 つなぐ つつむ(フリーダイヤル・無料)


注1)プロバイダやサイト管理者等への削除依頼代行は行っていません。
注2)削除依頼は、専門的知見を有する法務局が違法性を判断した上で行います。
注3)実際に削除されるかどうかはプロバイダの判断になります。また、困っている弱者が対象のため、著名人は自身での対応を依頼されます。アスリートの方は相談可能です。
注4)情報提供は誰でも受けられますが、法律相談を受けるには「収入等が一定額以下であること」「民事法律扶助の趣旨に適すること」が必要となります。また、費用の立替えを受けるには、法律相談の条件に加え、「勝訴の見込みがないとは言えないこと」が必要となります。資力等についてはこちら

<参考資料>
刑法 | e-Gov法令検索
刑事訴訟法 | e-Gov法令検索
刑法等の一部を改正する法律案 (法務省)
インターネット上の人権侵害をなくしましょう (法務省)
インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口のご案内(法務省)
人権相談 (法務省)