遺言書って難しそう・・・。面倒くさい・・・。なんて考えている方も多いと思います。
現在、日本で遺言書を残している方は約10%程度といわれており、遺言書を書いていない90%でも、相続手続きが行われているのが実情です。だからといって遺言書を書かなくても問題が起こらない、というわけではありません。相続人の構成や相続財産の内容によっては、残された人々がとても苦労するケースが見受けられます。特に、子供のいない御夫婦や、再婚をして前の配偶者との間に子供がいるケースなどでは、もめることが多いようです。なにより「自分が亡くなった後に、誰に何をどのような思いで残すか」という最後の意思の実現は遺言書でなければできません。
ここでは、遺言書を身近に感じていただくために、遺言書についてお話したいと思います。
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目次
1.遺言書には3種類ある
 (1)自筆証書遺言
 (2)公正証書遺言
 (3)秘密証書遺言
 (4)3種類の遺言書の比較
2.遺言書の形式を選ぼう


 

1.遺言書には大きく3種類ある


 遺言書には普通方式と特別方式があります。特別方式の遺言書は、、船舶が遭難した場合などの特別な場合に作成することができる遺言書で、私達が通常作成するのは普通方式の遺言書となります。この普通方式の遺言書には、「自筆証書遺言書」「公正証書遺言書」「秘密証書遺言書」の3種類があります。

(1)自筆証書遺言書
 「遺言書を書く」という作業自体は難しくありません。直筆で、全文・日付・氏名を自書し、押印すれば成立します。これを自筆証書遺言書といいます。たとえば、「遺言書 すべての財産を妻山田花子に相続させる。 令和4年6月23日 山田太郎」と手書きし、印を押すだけで成立します注1)。この内容では、遺留分の問題等が発生する心配が残りますが、遺言書としては有効なのです。どうですか? 簡単ですよね。ただし、配慮の足りない遺言書を作成してしまうと、せっかく遺言書を書いても遺産分割協議が必要となってしまうことがあるため、専門家への相談をお勧めしています。

(2)公正証書遺言書
 財産の種類や額が多く、複数の関係者に相続・遺贈する場合には、手書きするだけでも一苦労です。また、遺言書は形式にミスがあると無効となってしまうため、自筆証書遺言書では正しく書けているか不安だと思われる方もいるでしょう。そのような場合には、公正証書遺言書がお勧めです。専門家では、この方式を勧める方が多いようです。公正証書遺言は、遺言者が口述したものを公証人が筆記して作成しますので、自分で書く必要がありません。また、遺言のプロフェッショナルが作成するため、形式にミスが起こる可能性は低いといえます。

(3)秘密証書遺言書
 公正証書遺言書を作成するには公証役場で証人2人以上の立会の元で口述する必要があります。つまり、自分の財産の内容や相続人への思いを第三者に知られてしまうことになります。遺言書の内容はとてもプライベートなものです。内容を知られたくないという方も多いでしょう。そのような場合には、秘密証書遺言書を作成することができます。秘密証書遺言書は、自身で用意した遺言書に封をして公証役場に持参し、公証人と証人2人以上に遺言書を証明してもらう制度です。公正証書遺言書のように遺言の内容を第三者に知られることもありませんし、封印されますので自筆証書遺言書のように偽造の心配も低くなります(保管は遺言の作成者です)。また、秘密証書遺言書は自筆でなくてもよく、パソコン等で作成したり、第三者が代筆したりすることもできます注2)。法務局における自筆証書遺言書保管制度が始動したことで、秘密証書遺言書の意義が無くなったという専門家もいますが、「内容は知られたくないけど、手書きはちょっと・・・」という方には適しているのではないでしょうか?

(4)3種類の遺言書の比較
 ここまでは、3種類の遺言書について簡単に述べましたが、下表にそれぞれの特徴をまとめています。自分に合った方式を選択するのにお役に立てば幸いです。

  自筆証書遺言書 公正証書遺言書 秘密証書遺言書
作成時 遺言書の作成者 本人のみ 本人のみ 公証人 本人
代筆者
自筆での記載 必要
(財産目録はパソコン作成可)
必要
(財産目録はパソコン作成可)
不要 不要注2)
費用 不要 保管の手数料は1通 3,900 円 財産の価額に応じた手数料注4) 公証役場の手数料1,1000円
承認の立会 不要 不要 証人2人以上 証人2人以上
遺言の内容を知る人 本人 本人 本人
公証人
証人2人
本人
代筆者
保管 保管の場所 本人が選択した場所
(住居、貸金庫注3)など)
法務局 公証役場 本人が選択した場所
(住居、貸金庫注3)など)
相続発生後 死亡時の通知制度 なし
(遺言書を作成したことを知らせておく必要あり)
あり注5) なし
(公正証書遺言を作成したことを知らせておく必要あり)
なし
(遺言書を作成したことを知らせておく必要あり)
発見されない恐れ あり なし あり あり
紛失・隠匿・偽造のおそれ あり なし なし 低い
遺言の形式不備等により無効になるおそれ あり あり なし あり
家庭裁判所の検認手続 必要 不要 不要 必要
メリットデメリット 上記以外のメリット 証明書の交付
作成者による遺言書の閲覧が可能
関係遺言書保管通知注6)
公証人による遺言能力や遺言の内容の有効性確認、遺言内容の助言等がある
上記以外のデメリット 法務局に出向く必要がある 公証役場に出向く必要がある(出張も可能)

2.遺言書の形式を選ぼう


簡単にあなたに適した遺言書の形式を選びましょう!


注1)財産のリスト(財産目録)はパソコン等で作成することができます。また、リストとして整理されていなくても、財産の内容がわかるようなもの(土地について登記事項証明書や通帳の写し)を添付することもできます。ただし、財産目録にも署名と押印が必要となります。
注2)パソコンでの作成や代筆の場合(自筆でない場合)に形式に不備があった場合には無効となりますが、自筆で作成した場合には自筆証書遺言書として有効になる場合があります。
注3)遺言作成者の死後に銀行の貸金庫を開けるには、相続人全員の実印を押した申請書と印鑑証明書を銀行に提出する必要があります。また、公証人に「事実実験公正証書」を作成してもらうことで、相続人一人でも貸金庫の中身を確認することができます。
注4)手数料の計算はこちら 相続財産が1億円以下の場合は5万円未満です。
注5)遺言者があらかじめこの通知を希望している場合、遺言者が選択した一人に対して、遺言書保管所において、遺言者の死亡の事実が確認できた時に、 遺言書が遺言書保管所に保管されている旨が通知されます。注6)相続人等のうちの一人が、遺言書保管所において遺言書の閲覧をしたり、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人等全員に対して、遺言書が遺言書保管所に保管されている旨のお知らせが届きます。

<参考>
自筆証書遺言の様式(法務局)
自筆証書遺言作成キット(法務局
遺言書保管申請ガイドブック(法務局)
法務省:自筆証書遺言に関するルールが変わります。財産目録作成時の注意点 (moj.go.jp)
自筆証書遺言保管制度について1
自筆証書遺言保管制度について2
日本公証人連合会